派遣社員ではあるけれど、責任のある仕事を任されている。
相変わらず彼氏はいない。だけど、
家に帰ると疲れて寝てしまうことがほとんどだから。
寂しさを感じてる余裕もない。ある意味ありがたい・・・のかな?
今日は久しぶりに仕事が早く終わった。外はまだ明るい。
「散歩でもしながら帰るかー」私は目的地を決めることもなく、気の向くままに歩き始めた。
「まだ明るいっていいなー♪」普段は真っ暗になった道を帰るので、夕方ではあるけれど周りの景色が新鮮に見える。
私は思いっきり空気を吸い込んだ。「もう夏だなぁ」夏の夜の独特のにおいを感じた。
ただそれだけで心が弾んだ。ふと気付くと見覚えのある場所に来ていた。
「あの木・・・」懐かしいあの木。
またあの時の光景を思い出す。もう涙は出なかった。
あんなに辛い思いをした場所が。今では懐かしい場所に変わっていた。
私はそっと木の幹に手を当てて空を見上げる。その木はあの時と変わらず、青々とした葉を茂らせている。
気持ちのよい風が吹いている。私は目を閉じてしばらくその風を全身に感じていた。
カサッ私は目を開けて音がした方を見る。「・・・タク?」
そこにいたのはタクだった。「久しぶりだね・・・」
私達はしばらくの間。黙って見つめあっていた。
向こうも驚いているようだった。「・・・あのさ」とタクが口を開く。
「悪かったな。あの時は」思いがけない言葉だった。
だけど今さら言われても。「別に・・・」他に言葉が思いつかなかった。
もう、怒ってもわめいてもどうしようもない。
「今、どうしてる?」
「別に・・・一人でやってる・・・」
「そうか」
そう言うとまたしばらく沈黙が続いた。「オレ。結婚したんだ」
「そう、おめでと」
「うん。でも・・・」
「何?」
「でも、この季節になるとこの場所に来ちゃうんだ」
そう言うとタクは空を見上げる。「この場所で、オマエは今どうしてるかと考えちゃうんだ」
私は少し考えて言った。「私は大丈夫。奥さんいるんでしょ。もうココには来なくていいよ。もう終わったことなんだから」
ワザと明るく言って見せた。「じゃあね」
そう言うとあの時とは逆に、今度は私がタクに背中を向けて歩き出した。もう出ないと思っていた涙が頬を伝った。
あの時と同じ、ザワザワという木の音が響いていた。